あの日は兎に角蒸し暑かった
梅雨だというのに
朝から太陽が容赦なく
頭上へ燦々と降りしきっていた
あなたは左手に握りしめていた
レースの白いハンカチを
右の手で差し掛けていた日傘と
器用に持ち替えて
額の汗を丁寧に拭きながら
「暑いですね〜」だったのか
「蒸しますね！」だったのか
柔らかくてゆったりとした調子で
ぼくを軽く見てそんな風なことを言った
ぼくは
「そうですね！蒸し暑いですね！」
と言ったのか、ただぶっきらぼうに
そして息が抜けたように
「はあ〜」って言ったのか
今じゃあよく覚えてはいないけれど
まるで
あなたなんかに感心がない振りを
して見せていたと思う
ところが
あのときのぼくは
奇跡的に再会した
日傘の中のあなたの表情が
一番の関心事だったことは
いまでもしっかりと覚えている
あのとき
ぼくはあなたが持ってきた
荷物がいっぱい詰まったバッグを
あなたに代わって
右手に左手に
持ちかえ持ちかえしながら
まるで
あなたの下男のように
あなたから半歩ほど後を歩き
あなたとのこれからのことなんかを
ひとりで空想していたことを
いまでもしっかりと覚えている
そんな六月の
あの記念すべき日が
もうすぐやってくる
そうだ！行こうって
決めてるんだったね
ぼくたちの恋愛の揺籃期を
見守っていただろう
あの古ぼけた喫茶店に
日傘をさしたあなたを連れて
絶対に行こう
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